国試データ分析

歯科医師国家試験の新卒合格率100%のからくり|卒業しても受験しない学生がいる理由を13年データで検証

kameman

歯学部の進学先を比較するとき、「新卒合格率100%」という数字を見て安心してしまうかたは少なくありません。たしかに、合格率100%という表記は強烈です。しかし、その「100%」の裏には、見落とされがちな分母の絞り込みが隠れています。

この記事では、歯科医師国家試験の新卒合格率という指標が、実際にはどのような母集団を測っているのかを、私立歯学部17校の13年分の公開データから検証していきます。なぜ「卒業者数 > 新卒受験者数」という構造が一部の大学で継続的に観察されるのか、その規模はどれくらいか、そして受験生・保護者として進学先を選ぶときに何を見ればよいのか。実データに基づいて整理しました。

本記事の要点(30秒まとめ)

  • 新卒合格率の分母は「新卒で受験した人」のみであり、卒業者全員でも入学者全員でもない
  • 大阪歯科大学では令和5・6年度の2年間で卒業者240人に対して新卒受験者131人、差109人が新卒で受験していない(A方式での実測値)
  • 私立17校で第107〜119回(13年分)を集計すると、上位4校(大阪歯科・朝日・明海・日本大学松戸歯学部)で「前年不合格者では説明できない既卒受験者」が継続的に観察される
  • 進学先比較の主軸指標は「新卒合格率」ではなく「ストレート合格率(修業年限内合格率)」が妥当

目次

  1. 新卒合格率100%という指標の定義
  2. 「卒業させるが受験させない」という運用の存在
  3. A方式:卒業者数と新卒受験者数の直接比較(2年実測)
  4. B方式:13年遡及データで見える構造的傾向
  5. 上位5校の詳細事例
  6. B方式が収束した大学のその後 — 明海・日本大学松戸歯学部・鶴見
  7. なぜこの構造が生まれるのか(中立的考察)
  8. 受験生・保護者はどの数字を見ればよいか
  9. まとめ:新卒合格率より「ストレート合格率」を見よ

新卒合格率100%という指標の定義

歯科医師国家試験の合格率について語るとき、最もよく目にするのが「新卒合格率」という数字です。各大学のパンフレットやウェブサイトでも頻繁に登場し、特に「100%」という数字には大きな訴求力があります。

しかし、新卒合格率の正式な計算式を確認すると、その意味は世間一般のイメージとは少し違うことが分かります。

新卒合格率(%) = 新卒合格者数 ÷ 新卒受験者数 × 100

ここで重要なのは、分母が「新卒で受験した人」だけである点です。卒業者全員が分母なのではなく、ましてや入学者全員が分母なのでもありません。「新卒で国家試験を受けた人の中での合格率」が、新卒合格率の正体です。

入学から国家試験までの間には、母集団が絞られるフェーズが2つあります。

フェーズ内容影響する指標
フェーズ1入学から卒業までの修学プロセス(留年・退学)卒業者数 / 修業年限内卒業率
フェーズ2卒業後に新卒で国家試験を受験するか新卒受験者数 / 新卒合格率の分母

フェーズ1の修学プロセスについては、既に新卒合格率とストレート合格率の乖離を詳しく解説した記事で取り上げています。本記事では、その先のフェーズ2、つまり卒業後に新卒で受験するかどうかという段階に焦点を当てます。

新卒合格率は、最終的に新卒で受験した人だけを分母にしている指標です。この2段階で分母が絞られるほど、見かけ上の合格率は上がりやすくなる構造になっています。


「卒業させるが受験させない」という運用の存在

「卒業はしたものの、新卒では国家試験を受けない学生がいる」という指摘が、当チャンネルのYouTube動画に視聴者のかたからコメントとして寄せられました。読者からの指摘を受け、当方でも公開データで検証してみたのが本記事の出発点です。

検証方法は2つあります。

A方式(直接比較): 各大学の公式サイトに掲載されている卒業者数と、厚生労働省が公表している新卒受験者数を、そのまま並べて引き算する方法。

B方式(13年遡及): 今年の既卒受験者の数は、本来なら前年の不合格者の数を上回ることはないはず。それを上回っている分は「どこから来たのか」を考える方法。

A方式は数値の意味が明快ですが、卒業者数の公表が当方で取得できているのが令和5・6年度の2年分のみという制約があります。一方、B方式は厚生労働省データだけで完結するため、第107〜119回の13年分まで遡って検証できるのが強みです。ただし、B方式はあくまで誤差を含む試算値である点に留意が必要です。

以降の章で、A方式とB方式の両方の結果を順に見ていきます。

A方式:卒業者数と新卒受験者数の直接比較(2年実測)

A方式の考え方と出典

A方式の計算式はシンプルです。

新卒未受験者数 = 卒業者数 − 新卒受験者数

データの出典は2つだけです。

  • 卒業者数: 各大学公式サイトの修学状況ページ
  • 新卒受験者数: 厚生労働省「歯科医師国家試験学校別合格者状況」

公的なデータを並べて引き算するだけなので、誰が計算しても同じ答えになる、シンプルな方法です。

大阪歯科大学:2年計で109人の差

私立17校のうち、A方式で2年計の差が大きい大学は2校に集中します。最も差が大きいのが大阪歯科大学で、令和5年度と令和6年度の2年計で109人の差が観察されました。

年度卒業者数新卒受験者数差(未受験者数)
令和5年度120人71人(第117回)+49人
令和6年度120人60人(第118回)+60人
2年合計240人131人+109人

ちなみに第118回国家試験における大阪歯科大学の新卒合格率は、60人受験して60人全員合格、つまり100%となっています。卒業者120人のうち60人だけが新卒で受験して全員合格、というのが「100%」の実態です。

朝日大学:2年計57人

A方式での次の注目校は朝日大学です。

年度卒業者数新卒受験者数差(未受験者数)
令和5年度102人80人(第117回)+22人
令和6年度109人74人(第118回)+35人
2年合計211人154人+57人

注目すべきは、令和5年度から令和6年度にかけて差が拡大している点です。たまたま1年だけそうなったのではなく、2年連続で安定して観察されている傾向だと読むことができます。

A方式の限界

A方式で残る15校は、卒業者数と新卒受験者数がほぼ一致しており、差はほとんど観察されません。一見、上記2校だけが該当大学のように見えますが、A方式には大きな限界があります。

それは、当方で取得できている卒業者数データが令和5・6年度の2年分のみである点です。過去年度の卒業者数も各大学が修学状況として公表しており取得は可能ですが、現時点で当方の手元には2年分しかありません。これでは、たまたま2年だけそうなったのか、それとも長年にわたる傾向なのかを判断できません。

そこで次の章では、厚生労働省データだけを使って13年分を遡及検証する方法(B方式)を導入します。


B方式:13年遡及データで見える構造的傾向

B方式の論理と計算式

B方式は、既卒受験者数を起点に逆算する方法です。

ある回の既卒受験者は、原則として前年の不合格者から構成されるはずです。具体的には次のとおりです。

N回既卒受験 = (N-1)回新卒不合格 + (N-1)回既卒不合格 − 受験を諦めた人

「受験を諦めた人」がいるなら、N回既卒受験者数は前年不合格者総数(新卒不合格+既卒不合格)以下になるはずです。これを上回るプラス分が、「卒業時点で新卒受験を見送り、後から既卒として参戦している層」を示すサインだと解釈できます。

そこで、次の差分をB方式差分と呼ぶことにします。

B方式差分(N回) = N回既卒受験 − {(N-1)回新卒不合 + (N-1)回既卒不合}
  • プラス: 前年不合格者を上回る既卒が受験 → 受験回避していた卒業生の遅れての参戦
  • ゼロ: 前年不合格者がほぼ全員翌年受験
  • マイナス: 前年不合格者の一部が翌年の受験そのものを諦めた(諦め組流出)

大阪歯科大学 第119回の検算

冒頭に提示した「第118回47人不合格なのに第119回106人受験」という具体例で、B方式差分を実際に計算してみます。

ステップ計算
第118回 新卒受験60 / 合格60 → 新卒不合0人
第118回 既卒受験113 / 合格66 → 既卒不合47人
前年不合格総数0 + 47 = 47人
第119回 既卒受験106人
B方式差分106 − 47 = +59人

冒頭で提示した「+59人」の数字が、計算上、ここで再現されます。この59人は、前年の不合格者では説明できない既卒受験者です。

私立17校×13年純累積ランキング

第107〜119回の13年分について、私立17校全部のB方式差分を集計したものが下表です。

順位大学名純累積(13年)プラス回数
1大阪歯科大学+440人11/13回
2朝日大学+230人13/13回
3明海大学+123人4/13回
4日本大学松戸歯学部+122人7/13回
5鶴見大学+44人3/13回
6東京歯科大学-2人1/13回
7福岡歯科大学-7人2/13回
8昭和医科大学(旧昭和大学)-8人2/13回
9愛知学院大学-14人2/13回
10日本歯科大学新潟生命歯学部-15人1/13回
11日本歯科大学-16人2/13回
12北海道医療大学-18人2/13回
13岩手医科大学-20人0/13回
14日本大学-25人4/13回
15神奈川歯科大学-28人1/13回
16奥羽大学-52人1/13回
17松本歯科大学-66人0/13回

上位4校(大阪歯科・朝日・明海・日本大学松戸歯学部)と残り13校の差は明確です。残り13校はB方式の純累積がいずれもマイナスかゼロ近辺で、構造的に該当度は低いと評価できます。

B方式は誤差を含む参考値である

B方式の計算は厚生労働省データだけで完結する強みがある一方で、いくつかの誤差要因を含みます。

  • 退学者・他大学受験者・長期既卒者の累積分布が考慮されていない
  • 同じ受験者が複数年にわたって既卒受験する場合の重複の影響
  • 出願はしたが実際には受験しなかった層の扱い

そのため、B方式の純累積値は「13年遡及試算による参考値」と位置づけ、A方式の正確値と組み合わせて読むのが妥当です。それでも、上位4校と残り13校の差は誤差では説明できないほど大きく、構造的な傾向の存在は示唆されます。

マイナス側の解釈:諦め組流出型

B方式マイナスは、必ずしも「優良大学」を意味しません。例えば、マイナスが最大の松本歯科大学を見ると次のような構図が観察されます。

  • B方式13年純累積 -66人
  • 意味:不合格になった既卒組のうち、累積で約66人が翌年の受験を諦めたと推測される

既卒受験者数の絶対数も第107回120人から第119回19人へと大きく縮小していますが、減少分には合格による退場も含まれるため、「諦めた人数」の推定にはB方式累積値(-66人)を用いるのが妥当です。受験回避運用とは対極の「諦め組流出型」と解釈できます。本記事では、B方式プラスもマイナスも、それぞれ別の意味で受験生が知っておくべき情報として扱います。


上位5校の詳細事例

ここからは、B方式上位5校について、13年の推移パターンを類型化して見ていきます。

大阪歯科大学:長期継続型

純累積:+440人 / プラス回数:11/13回

第107・108回はほぼゼロでしたが、第109回(2016年実施)から急にプラス幅が大きくなり、以降11年連続でプラスが継続しています。データ上、第109回が転換点になっていることが確認できます。原因については公式発表が存在しないため、本記事では推測しません。

各回のB方式差分は次のとおりです。

差分
107-3
1080
109+32
110+30
111+52
112+18
113+31
114+59
115+31
116+32
117+53
118+46
119+59

第109回以降、毎年安定して+18〜+59人のプラスが記録されており、13年遡及試算における純累積は+440人にのぼります。

朝日大学:長期常態化型

純累積:+230人 / プラス回数:13/13回

朝日大学の特徴は、13年すべてにわたってプラスを記録している唯一の大学である点です。1年あたりの規模は大阪歯科大学に比べると小さいものの、継続性では17校中最大です。

差分
107+12
108+2
109+10
110+21
111+26
112+35
113+4
114+29
115+17
116+11
117+13
118+21
119+29

A方式(令和5・6年度)でも2年計で+57人と顕著に観察されており、B方式・A方式の両方で安定して該当する大学です。

明海大学:集中発生→収束型

純累積:+123人 / プラス回数:4/13回

明海大学のパターンは、第110〜112回(2017〜2019年実施)の3年間に集中して大きなプラスを記録し、第113回で収束に転じたのが特徴です。

差分
1070
108-3
109-1
110+40
111+40
112+46
113+22
114-3
115-2
116-6
117-9
118-1
1190

第114回以降は0近辺〜マイナスが続いており、B方式上では収束しているように見えます。第114回以降のその後の推移は次のH2-6で詳しく取り上げます。

日本大学松戸歯学部:断続発生→収束型

純累積:+122人 / プラス回数:7/13回

日本大学松戸歯学部は、第107回・第113〜116回付近に断続的に大きなプラスが出現し、近年は収束しているパターンです。

差分
107+28
108-2
109-4
110+1
111-3
1120
113+39
114+20
115+33
116+15
117-2
118-4
119+1

明海大学と同様、第116回以降は0近辺で推移しており、こちらも次のH2-6で詳しく見ていきます。

鶴見大学:短期集中→収束型

純累積:+44人 / プラス回数:3/13回

鶴見大学の特徴は、第111回(2018年実施)に+71人と単年ピークを記録し、第112回も+17人とプラスが残り、第113回で収束するパターンです。集中期間は明海大学より短い2年ですが、明海と同じ世代・同じ境界での構造変化が観察されます。

差分
107-4
108-2
109-6
110-5
111+71
112+17
113-3
114-4
115-5
116-2
117-11
118-3
119+1

純累積は+44人で上位4校(+440・+230・+123・+122)と比べると規模は小さいものの、第111回の+71人は単年では明海大学・日本大学松戸歯学部のピーク値(+46・+39)を上回ります。鶴見大学のその後の推移は、次の章で明海・松戸とともに詳しく見ていきます。


「新卒受験を見送る運用」が収束した前後で何が起きたか — 明海・日本大学松戸歯学部・鶴見大学の5指標比較

明海大学・日本大学松戸歯学部・鶴見大学は、B方式の上位に名を連ねながら、近年は数字が収束しています。本節では、収束した前後で「新卒出願者数」「新卒受験者数」「新卒合格率」「ストレート合格率」「6年次留年・休学率」の指標を時系列で並べて見ていきます。特に注目したいのは、文部科学省の歯学部修学状況等調査で公表されている「6年次の留年・休学率」です。これは6年次に在籍する学生のうち、在学中に一度でも留年または休学を経験した学生の割合を示します。

明海大学:第112回(直前)→ 第113回(直後)→ その後

明海大学のB方式差分が大きく出ていたのは第110〜112回まで。第113回でゼロ近辺に収束しました。

指標第112回(直前)第113回(直後)第114回第115回第116回
新卒出願者数137130137120112
新卒受験者数81828010085
新卒合格率80.2%80.5%86.3%76.0%77.6%
ストレート合格率44.2%43.8%44.3%47.5%38.3%
6年次留年・休学率(年度)H30=19.5%R元=29.6%R2=37.0%R3=49.0%R4=56.2%

直前と直後で目を引くのは、6年次留年・休学率の動きです。平成30年度(直前)の19.5%から令和元年度(直後)の29.6%へ、プラス10.1ポイントの急増。さらにその後の推移を追うと、令和2年度37.0%、令和3年度49.0%、令和4年度56.2%と上昇が続き、5年で約3倍にまで膨らんでいます。

新卒出願者数(137→130→137)も新卒受験者数(81→82→80)もほぼ変わらず、新卒合格率も80.2%→80.5%とほとんど動いていません。一見すると変化が小さく見えますが、「6年次に学生が滞留する」という構造変化は確実に起きていたことになります。

これが何を意味するかについて、考え方は2つあります。

  • 過去は卒業させていたと思われる学生が、卒業まで通過させていたと考えられる
  • 運用を見直した後は、留年として6年生に残るようになったと推測できる

公式発表のない仮説ではありますが、データは「新卒受験を見送らせる運用の収束が学生の滞留を引き起こしうる」という方向を示唆しています。

日本大学松戸歯学部:第116回(直前)→ 第117回(直後)→ その後

日本大学松戸歯学部のB方式差分が大きく出ていたのは第113〜116回まで。第117回でゼロ近辺に収束しました。

指標第116回(直前)第117回(直後)第118回第119回
新卒出願者数122139101116
新卒受験者数661238271
新卒合格率74.2%68.3%61.0%47.9%
ストレート合格率37.0%51.3%38.6%未公表
6年次留年・休学率(年度)R4=38.4%R5=48.2%R6=40.8%R7=44.8%

注目すべきは2点です。

  • 6年次留年・休学率が直前→直後で +9.8ポイント急増(R4=38.4% → R5=48.2%)。明海と同じく、運用が収束した直後に滞留が顕在化しています
  • 同時に新卒受験者数が66→123人へ約2倍に増加。これまで新卒受験を見送られていた学生が、新卒受験するようになったと読めます

その後の動きを見ると、令和6年度は40.8%へいったん下がりますが、令和7年度には44.8%まで再上昇しており、留年・休学の高水準が定着していることがわかります。

新卒合格率は74.2→68.3%へやや低下していますが、これは受験者数が増えたことで合格率の見え方が下がっただけと読めます。ストレート合格率は37.0→51.3%へ大きく上昇しており、コホート全体としての合格力は向上しています。

鶴見大学:第112回(直前)→ 第113回(直後)→ その後

3校目はB方式ランキング5位の鶴見大学(純累積+44)です。明海と同じ世代・同じ境界(第112回まで継続→第113回で収束)のパターンが見られます。

指標第112回(直前)第113回(直後)第114回第115回第116回
新卒出願者数8212912710188
新卒受験者数5691836244
新卒合格率71.4%64.8%51.8%64.5%81.8%
ストレート合格率26.2%37.6%27.4%29.5%31.3%
6年次留年・休学率(年度)H30=37.8%R元=47.4%R2=52.0%R3=53.5%R4=63.7%

6年次留年率は直前→直後で +9.6ポイント急増(37.8→47.4%)。明海・松戸と同じ規模の変化が、ランキング5位の中規模事例でも観察されます。

3校に共通する構造

項目明海大学日本大学松戸歯学部鶴見大学
6年次留年率の変化(直前→直後)+10.1pt 急増(19.5→29.6%)+9.8pt 急増(38.4→48.2%)+9.6pt 急増(37.8→47.4%)
直後の新卒受験者数ほぼ維持(82→80人)大幅増(66→123人)増加(56→91人)
5年後の6年次留年率56.2%(さらに上昇継続)63.7%(上昇継続)

3校に共通しているのは、運用が収束した直後に6年次の留年・休学率が +9〜10ポイントの規模で急増しているという事実です。 規模も世代も異なる3校で同じ構造変化が観察されることは、「過去は卒業させていたと思われる学生が、留年として6年生に残るようになった可能性」をデータが示唆しています。

ただし、これは公式発表のない仮説であり、断定できる話ではありません。1つだけ確かなのは、ひとつの指標、1年だけの数字で大学を判断するのは難しい、ということ。進学先を比較するかたには、新卒合格率の単年だけでなく、新卒の出願者と受験者の動き、ストレート合格率、そして6年次の滞留状況を、セットで読む姿勢を強くおすすめします。

卒業のタイミングは受験生・保護者にとって良いことか

卒業者の一部が新卒受験を見送る運用が収束した結果として、国家試験を受ける学生が増えるのではなく、留年する学生が増える、という結果になっている可能性があります。これが受験生や保護者にとって良いことなのかは、評価が分かれます。

  • 既卒受験の合格率は新卒よりかなり低いのが現状です。であれば、卒業して既卒として受けるより、大学に1年残って勉強をやり直し、新卒として受験するほうが合格しやすいかもしれません
  • ただし、大学に残ればその分の学費がかかります。歯学部の学費は、予備校の学費より高いことが多いのが実情です。家計の追加負担という意味では、既卒として受験する形のほうが軽い、という見方もできます

卒業のタイミングをどうするかは、合格可能性家計負担のどちらを重く見るかで評価が変わる構造です。一方的に「良い」「悪い」とは言えない、という前提で進学先を選ぶことが大事です。


なぜこの構造が生まれるのか(中立的考察)

ここまでで、私立17校のうち、B方式13年累積で上位4校(大阪歯科・朝日・明海・日本大学松戸歯学部)に大きな差が観察され、A方式の最新2年(令和5・6年度)でも大阪歯科・朝日の2校で継続していることを確認しました。なぜこのような構造が生まれるのか、いくつかの可能性が考えられます。

構造的に考えられる要因

(1) 大学側のインセンティブ: 新卒合格率は受験生・保護者・予備校・メディアに最も注目される指標です。分母を絞り込めば見かけ上の数字が上がる構造になっているため、結果として「新卒受験者数が抑えられる」運用が生まれる余地はあります。

(2) 学生本人の判断: 卒業はしたものの、自身の学習進度や予備校での模擬試験成績などから、新卒で受験するよりも1年準備期間を置いてから既卒で受験するほうが合格可能性が高いと判断する学生もいます。

(3) 大学からの指導・助言: 大学側が、国家試験対策としての準備が十分でないと判断した学生に対し、新卒での受験を控えて翌年に万全の状態で臨むよう助言するケースも考えられます。

(4) 上記の組み合わせ: 実際には、大学のインセンティブと学生本人の判断、大学からの助言が複合的に作用している可能性が高いと考えられます。

「意図的か」の判断は本記事の範囲外

「大学が意図的に新卒受験を抑制している」という断定は、公式の発表や内部資料がない以上、本記事の範囲外です。本記事はあくまで、公開データから観察される事実とその構造的な意味の整理にとどめます。

ただし、観察される事実は次のとおり明確です。

  • 私立17校のうち、B方式13年累積で上位4校(大阪歯科・朝日・明海・日本大学松戸歯学部)に明確な差がある
  • A方式の最新2年(令和5・6年度)で継続的に差が出ているのは大阪歯科・朝日の2校。明海・松戸はB方式上で第117回前後に収束しており、現在のA方式では明確な差はない
  • 規模は、A方式で年間20〜60人、B方式で13年純累積+122〜+440人
  • 上位4校と残り13校の差は、誤差では説明できないほど大きい

この事実を踏まえて、進学先を選ぶ受験生・保護者がどの数字を見るべきかを、次の章で整理します。


受験生・保護者はどの数字を見ればよいか

主軸指標は「ストレート合格率(修業年限内合格率)」

進学先比較の主軸指標として、当チャンネルが一貫しておすすめしているのは「ストレート合格率(修業年限内合格率)」です。これは次のように定義される指標です。

ストレート合格率 = 入学者100人のうち、6年で国家試験まで合格した人の割合

分母が「入学者数」になっているため、修学プロセスでの絞り込み(フェーズ1)も、新卒受験有無での絞り込み(フェーズ2)も、すべての影響を考慮した実質的な指標になります。本記事で扱った「新卒合格率の見え方が良くなる構造」の影響を最も受けにくいのが、このストレート合格率です。

詳しい解説は新卒合格率とストレート合格率の乖離を詳しく解説した記事をあわせてご覧ください。

1つの指標だけで判断しない

これまで見たとおり、明海大学では新卒合格率が改善する一方で、留年・休学率が顕著に悪化しています。日本大学松戸歯学部では、新卒合格率・ストレート合格率・卒業留年率がそろって厳しい方向に動いています。

ひとつの指標だけを切り取って判断すると、進学先を見誤るリスクがあります。主軸はあくまでストレート合格率で、これに卒業留年率と新卒合格率を補助指標として組み合わせるのが妥当です。少なくとも次の3つはセットで確認してください。

指標位置づけ見るポイント
ストレート合格率(修業年限内合格率)主軸入学者を分母にした実質的な合格率
卒業留年率補助6年で卒業できる学生の割合
新卒合格率参考卒業して新卒受験に到達した人の合格率

繰り返しますが、進学先比較の主軸はストレート合格率1本です。新卒合格率は本記事で扱った構造の影響を最も受けやすい指標で、単独では判断材料になりません。

大阪歯科大学・朝日大学が進学先候補に入っている場合

現在も卒業者数と新卒受験者数に明確な差が出ている大阪歯科大学・朝日大学が進学先候補に入っているかたは、新卒合格率の数字をそのまま受け取らず、必ずストレート合格率と卒業留年率もあわせて確認してください。

私立歯学部17校全体のストレート合格率推移は、別記事の修学状況まとめ(私立17校・10年推移)で詳しく整理しています。

保護者向け:機会損失の構造を理解しておく

「卒業しても新卒で国家試験を受けない期間」が発生するということは、その分、歯科医師として働き始めるタイミングが遅れる構造を意味します。

留年と異なり、卒業後は学費が追加で発生するわけではないため、純粋な経済的負担は留年と比べると軽い側面もあります。一方で、生活費は卒業後も発生し続けますし、社会人としてのキャリア開始が後ろ倒しになる機会損失は確実に生じます。

「6年で歯科医師になる」というご家庭の計画から外れる構造であることは、進学先を選ぶ前に知っておいて損はありません。


まとめ:新卒合格率より「ストレート合格率」を見よ

ここまでの内容をまとめます。

1. 新卒合格率は「新卒で受験した人の中での合格率」にすぎない。 卒業者全員でも、入学者全員でもない。指標の分母が「新卒で受験した人」だけである以上、見かけ上の数字が上がりやすい構造的な余地が存在する。

2. 私立17校のうち、現在も卒業者数と新卒受験者数の差が継続的に大きく出るのは特に2校。 大阪歯科大学と朝日大学が該当する。そのほかの大学でも過去は同様の運用があった可能性があるが、現在は卒業者数と新卒受験者数に明確な差はない(B方式13年累積では明海・日本大学松戸歯学部・鶴見でも過去に大きな差が観察されたが、いずれも近年は収束)。

3. 進学先比較で見るべき主軸指標は「ストレート合格率(修業年限内合格率)」。 入学者数を分母にした、6年で国家試験まで合格した人の割合。本記事で扱った構造の影響を最も受けにくい指標。

歯学部の進学先選びは、家庭の経済的負担も学生本人のキャリアにも大きく影響する重要な意思決定です。低学年からしっかり学習習慣を身につけ、着実に進級し続ければストレート合格は十分に到達可能ですし、それを実現している大学も実際にあります。

進学先を比較するときは、ひとつの数字だけに頼らず、複数の指標を組み合わせて判断することをおすすめします。


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データ出典

本記事の数値はすべて以下の一次データから取得しています。

  • 歯科医師国家試験 学校別合格者状況(第105〜119回): 厚生労働省
  • 修学状況・卒業者数・留年・休学率: 各大学公式サイト
  • 大阪歯科大学 在学者数・卒業者数: 大阪歯科大学公式

最新の数値や個別の大学の公表資料は、必ず各大学の公式サイトで原典をご確認ください。本記事の内容は2026年5月時点の公開データに基づいています。

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歯学部受験情報館を運営しているシカラボです。 教育機関で10年以上、歯学部に関するデータを扱ってきました。 入学者ベースのストレート合格率・留年率・退学率など、見落とされやすい指標を、 厚生労働省・文部科学省・各大学公式サイトの一次資料から継続的に分析しています。
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