歯学部広告の「合格率」に要注意!文科省公表データで分かる事実

大学選びの際、歯科医師国家試験の合格率は多くの受験生や保護者が参考にする重要な指標のひとつです。実際、いくつかの大学が歯科医師国家試験の合格率を強調した広告を展開しています。しかし、広告などでよく使われているのは「新卒合格率」であり、「新卒合格率が90%の大学に入学すれば、6年後に90%の確率で歯科医師になれる」と考えてしまう方も少なくありません。ですが、これは大きな誤りです。なぜなら、大学在学中には留年や退学など、さまざまな理由で卒業まで至らない学生が一定数存在し、こうした要素が新卒合格率には含まれていないからです。
文部科学省のホームページでは、「標準修業年限内での歯科医師国家試験合格率」という、入学した学生のうち規定年数でどれだけ国家試験に合格しているかを示す指標が公開されています。この「標準修業年限内合格率」は、新卒合格率と比べて厳しい数字が並んでいるのが実情です。大学選びの際には、こうした指標を参考にすることが重要です。この記事では、実際に公開されているデータをもとに詳しく解説していきます。
よく利用される新卒合格率

将来のことも考えて、国家試験に合格しやすい大学を選びたいんだけど、「歯科医師国家試験 大学ランキング」とかで検索して調べたらいいのかな。

将来のことをちゃんと考えて大学選びしてるなんてえらいね。でも、その検索条件で出てくるのは、ほとんどが「新卒合格率」なんだよね。でもそれは6年後に本当に国家試験に合格できる確率とは違うんだ。今回は、その合格率について、もう少し詳しく説明するよ。まずは厚生労働省が公表しているデータを基に新卒合格率を表にまとめたので見てみよう。
後述する「標準修業年限内での合格率」と比較しやすくするため、最新の第118回ではなく、一つ前の第117回のデータを使用しています。
※第118回の標準修業年限内合格率が現時点では公表されていないため
第117回歯科医師国家試験新卒合格率
国公立大学
学校名 | 受験 | 合格 | 合格率 |
---|---|---|---|
北海道大学歯学部 | 51 | 47 | 92.2 |
東北大学歯学部 | 50 | 44 | 88.0 |
東京科学大学歯学部 | 49 | 44 | 89.8 |
新潟大学歯学部 | 35 | 30 | 85.7 |
大阪大学歯学部 | 51 | 47 | 92.2 |
岡山大学歯学部 | 50 | 48 | 96.0 |
広島大学歯学部 | 54 | 44.4 | 81.5 |
徳島大学歯学部 | 42 | 37 | 88.1 |
九州大学歯学部 | 47 | 42 | 89.4 |
長崎大学歯学部 | 44 | 41 | 93.2 |
鹿児島大学歯学部 | 57 | 54 | 94.7 |
九州歯科大学 | 86 | 68 | 79.1 |
私立大学
学校名 | 受験 | 合格 | 合格率 |
---|---|---|---|
北海道医療大学歯学部 | 34 | 27 | 79.4 |
岩手医科大学歯学部 | 51 | 34 | 66.7 |
奥羽大学歯学部 | 63 | 38 | 60.3 |
明海大学歯学部 | 84 | 64 | 76.2 |
日本大学松戸歯学部 | 123 | 84 | 68.3 |
東京歯科大学 | 121 | 120 | 99.2 |
日本歯科大学生命歯学部 | 96 | 85 | 88.5 |
日本大学歯学部 | 96 | 68 | 70.8 |
昭和医科大学 | 94 | 89 | 94.7 |
鶴見大学 | 57 | 42 | 73.7 |
神奈川歯科大学 | 86 | 66 | 76.7 |
日本歯科大学新潟生命歯学部 | 54 | 44 | 81.5 |
松本歯科大学 | 51 | 46 | 90.2 |
愛知学院大学歯学部 | 101 | 71 | 70.3 |
朝日大学歯学部 | 80 | 58 | 72.5 |
大阪歯科大学 | 71 | 68 | 95.8 |
福岡歯科大学 | 74 | 49 | 66.2 |
標準修業年限内での歯科医師国家試験合格率

じゃあ、次に「標準修業年限内での合格率」を見てみよう。これは厚生労働省じゃなくて、文部科学省が公表しているデータなんだ。新卒合格率とどのくらい違うのか、表にまとめてみたよ。
第117回歯科医師国家試験標準修業年限内合格率
国公立大学
学校名 | 新卒合格率 | 修業年限内 合格率 | 差 |
---|---|---|---|
北海道大学歯学部 | 92.2 | 82.7 | 9.5 |
東北大学歯学部 | 88.0 | 75.5 | 12.5 |
東京科学大学歯学部 | 89.8 | 73.6 | 16.2 |
新潟大学歯学部 | 85.7 | 65.0 | 20.7 |
大阪大学歯学部 | 92.2 | 73.6 | 18.6 |
岡山大学歯学部 | 96.0 | 91.7 | 4.3 |
広島大学歯学部 | 81.5 | 75.5 | 6 |
徳島大学歯学部 | 88.1 | 67.5 | 20.6 |
九州大学歯学部 | 89.4 | 54.7 | 34.7 |
長崎大学歯学部 | 93.2 | 78.0 | 15.2 |
鹿児島大学歯学部 | 94.7 | 96.2 | -1.5 |
九州歯科大学 | 79.1 | 66.3 | 12.8 |
私立大学
学校名 | 新卒合格率 | 修業年限内 合格率 | 差 |
---|---|---|---|
北海道医療大学歯学部 | 79.4 | 38.6 | 40.8 |
岩手医科大学歯学部 | 66.7 | 37.0 | 29.7 |
奥羽大学歯学部 | 60.3 | 51.0 | 9.3 |
明海大学歯学部 | 76.2 | 39.2 | 37 |
日本大学松戸歯学部 | 68.3 | 51.3 | 17 |
東京歯科大学 | 99.2 | 71.1 | 28.1 |
日本歯科大学生命歯学部 | 88.5 | 50.8 | 37.7 |
日本大学歯学部 | 70.8 | 43.0 | 27.8 |
昭和医科大学 | 94.7 | 72.9 | 21.8 |
鶴見大学 | 73.7 | 23.9 | 49.8 |
神奈川歯科大学 | 76.7 | 35.3 | 41.4 |
日本歯科大学新潟生命歯学部 | 81.5 | 32.8 | 48.7 |
松本歯科大学 | 90.2 | 28.1 | 62.1 |
愛知学院大学歯学部 | 70.3 | 47.9 | 22.4 |
朝日大学歯学部 | 72.5 | 29.7 | 42.8 |
大阪歯科大学 | 95.8 | 48.4 | 47.4 |
福岡歯科大学 | 66.2 | 46.4 | 19.8 |
新卒合格率×修業年限内合格率の分布

「新卒合格率」と「修業年限内合格率」の関係がパッと見てわかるように散布図にしてみたよ。下の図は、右に行くほど新卒合格率が高くて、上に行くほど修業年限内合格率が高くなってる。例えば、新卒合格率は高いけど修業年限内合格率が低い大学は、図の右下にプロットされることになるよ。

文科省公表資料「歯学部歯学科の学科別の修学状況等」

新卒合格率と修業年限内の合格率が大きく違っている大学が多いね。何の数字を見ればよいか分からなくなってきた。

合格率ってひとくくりにしがちだけど、目的によってどの数字を見るのが一番いいのか、ちゃんと考えて選ぶことが大切だよ。受験生の立場で考えると、「どの大学に入れば、留年せずに最短で歯科医師になれるか」ってところが気になるはず。だから、新卒合格率よりも修業年限内合格率をチェックするほうが役立つと思うよ。修業年限内合格率は文部科学省のホームページで確認できるから見てみよう。
標準修業年限内での歯科医師国家試験合格率(3か年平均)


グラフにしてくれて比較がしやすいね。それにしても、歯学部に入学して留年せず最短で国家試験に合格できるのは半分ぐらいなのか・・。厳しいね。

特に私立歯科大学は、東京歯科大学と昭和大学を除くと、なかなか厳しい数字が並んでいるよね。現実は厳しいけど、「歯科医師になる」という目標に向かって、6年間しっかり勉強を続けていけば、どの大学に入っても最短で国家試験に合格できると思うよ。「6年間継続して学習する」ってのは簡単じゃないけど、そこはイチローさんの「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」っていう名言を思い出して、一歩ずつ頑張っていこう!

急にイチローでてきたな。
まとめ
今回ご紹介した通り、広告でよく利用される「新卒合格率」と「修業年限内合格率」には大きなギャップがあります。
受験生や保護者に対して、「最短で歯科医師になれるのは半数強しかいない」という厳しい現実を伝えると、歯学部志望者が減少してしまう懸念があるため、各大学としても広告で「修業年限内合格率」を積極的に用いにくい事情があると考えられます。
しかし、本来受験生や保護者に伝えるべき大学の教育カリキュラムの魅力は、「入学した学生を6年間のカリキュラムで育成し、国家試験に合格させる力」にあるべきであり、その評価指標としては「修業年限内合格率」を用いるのが妥当だと私は考えています。
文部科学省が公表している「歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」での議論においても、「最低修業年限での歯科医師国家試験合格率の向上」が課題とされており、各大学にはその改善が期待されています。
「新卒合格率の向上」を目的とする場合と、「最低修業年限での歯科医師国家試験合格率の向上」を目的とする場合では、大学の取り組み内容も異なってきます。「新卒合格率の向上」だけを重視すると、卒業判定を厳格化し、国家試験に合格できる見込みのある学生のみを卒業させる、といった6年生を対象とした対策に偏る可能性があります。しかし、「最低修業年限での歯科医師国家試験合格率の向上」を目指すのであれば、大学は6年間を通じた人材育成に真剣に取り組む必要があり、それこそが受験生や保護者にとって望ましい取り組みだと考えます。
以上の点から、今後の歯学部選びにおいては、「修業年限内合格率」を重視する受験生が増え、それに応じて各大学の教育カリキュラムも改善されていくことを期待しています。そして、歯学教育がさらに充実し、関わるすべての人がより良い環境で学び・活躍できるようになることを願っています。
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