2025

第118回歯科医師国家試験を検証:合格率上昇の背景と10年トレンド

kameman

近年の歯科医師国家試験では、合格者や不合格者の数だけでなく、受験者の属性ごとの合格率に関する公式データが公表されています。本記事では、最新データをもとに、どのような背景や状況の受験生が、どの程度の割合で合格しているのかを詳しく解説します。

本記事では、厚生労働省が公表している第〇回歯科医師国家試験の合格発表に関する公式資料に基づいて分析・解説しています。

歯科医師国家試験の受験者・合格者数の年度別推移

カメ人間
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歯科医師国家試験は、例年1月末から2月初めにかけて2日間にわたり実施され、その結果は3月中旬に発表されます。

医師国家試験の合格率は概ね90%を超えていますが、今回ご紹介する歯科医師国家試験の合格率はおおむね60%台にとどまっており、不合格者の数もかなり多い状況です。

第109回から第118回までの歯科医師国家試験における受験者数および合格者数の推移は、以下の図の通りです。

歯科医師国家試験 受験者数・合格者数・合格率の推移

歯科医師国家試験 受験者数・合格者数・合格率の推移
カメ人間
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直近10年間では、受験者数は3,039~3,284人、合格者数は1,937~2,136人の範囲で推移しています。合格率は第109回~第116回で61.6~65.6%でしたが、直近2年間は上昇傾向にあり、第118回では70.3%となりました。これは、受験者数が過去10年で最少だった一方、合格者数が同期間で最多だったことによるものです。

続いて、新卒受験者と既卒受験者に分けて合格率を見ていきましょう。

歯科医師国家試験_新卒・既卒の受験者数と合格率の推移

カメ人間
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年によってばらつきはあるものの、新卒受験者は概ね2,000人前後、既卒受験者は1,000人前後で推移しています。新卒受験者の合格率は上昇傾向にあり、第118回歯科医師国家試験では84.0%を記録しました。既卒受験者の合格率は新卒に比べて30~40ポイント程度低い水準です。合格が不可能というわけではありませんが、2回目以降の受験では厳しい結果が続いているのが現状です。

公表はされていないものの、直近10年の合格者数は1,973~2,136人の範囲で推移しており、その規模に収まるよう合格基準が調整されているようにも見受けられます。

第106回歯科医師国家試験までは2,400人前後が合格していましたが、第107回以降は2,000人前後で推移しています。資格試験である以上、本来は一定水準を超えれば合格となる絶対基準で評価してほしいところですが、実態としては相対基準が適用されている可能性があります。なお、令和6年度の全国29歯学部の募集人員の合計は2,485人です。途中で退学する学生がいることを考慮しても、歯学部生にとっては厳しい設計になっている印象です。

平成10年(1998年)5月の旧厚生省「歯科医師の需給に関する検討会」報告は、当時の養成規模(入学定員約3,000人)のままでは中長期的に歯科医師が総量として過剰になるとの見通しを示し、養成規模の見直し(入学定員の縮減)等を提言していました。国家試験の合格者数を直接制限する旨の記載はありませんが、結果として新たに歯科医師となる人数を2,000人前後に抑える方向性の一因となったと考えられます。

現在も「歯科医師の資質向上等に関する検討会」で需給問題が議論されていますが、総量を増やす結論には直ちには至らない見通しであり、当面は新規免許取得者数(合格者数)も2,000人前後で推移する可能性があります。

受験回数別の歯科医師国家試験の受験者・合格者の状況

カメ人間
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第118回歯科医師国家試験の受験回数別合格率を以下の図に示します。ここでは、新卒で初めて受験する者を「1回目受験者」、新卒時に不合格となり翌年に再受験する者を「2回目受験者」として扱います。

第118回歯科医師国家試験 受験回数別の合格率

カメ人間
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新卒者の合格率は84.0%と最も高く、2回目受験者の合格率は61.9%です。一方、4回目以降の受験者では合格率が30%台に低下します。これは第118回のデータですが、過去10年間の平均を見ても同様の傾向が確認されており、3回目までに合格できないと、その後の合格は非常に困難になることがうかがえます。

歯科医師国家試験の受験回数別の受験者数と合格率を紹介しました。回数を重ねるほど合格率は低下するため、「卒業後にいつか合格すればよい…」ではなく、「新卒で必ず合格する」という意識で臨むことが重要だと思います。

この受験回数別の受験者数を深掘りすると、数字に違和感のある点が一つあります。2回目の受験者数が前年度の新卒不合格者数より多いことです。第117回の新卒不合格者は362人だった一方、第118回の2回目受験者は423人と、61人多くなっていました。通常であれば、N回目の試験で不合格となった人数は、次の国家試験のN+1回目の受験者数とおおむね一致するか、試験を断念した人の分だけ減少するはずです。

2回目の受験者数が前年度の新卒不合格者数を上回る一因として、卒業後に国家試験を受験していない新卒者が一定数存在することが考えられます。

なぜ卒業要件を満たしていながら受験していないのかについては推測ですが、大学によっては新卒合格率を高く見せるため、合格可能性の高い学生に受験を絞っている可能性があるのではないかと考えられます。

もっとも、この一点だけで大学の方針の良し悪しを断じることはできません。ただ、受験しなかった新卒者の中には合格できた可能性のある人もいたはずで、機会を狭めてまで新卒合格率を高める方針が妥当かどうかについては、疑問も残ります。

一方で、大学が新卒合格率を重視する背景として、大学選びをする受験生や保護者が新卒合格率で大学の評価を行いがちであることも一因かもしれません。こうした流れを変えるには、新卒合格率ではなく、入学から6年以内に国家試験に合格した割合を示す修業年限内(ストレート)合格率を重視することが有効だと思います。

ストレート合格率は、大学教育を6年間のプロセスとして捉え、より多くの学生を進級・卒業・国家試験合格へと導くことでしか良い数値を出せない指標です。

以上の背景から、これから歯学部を目指す学生の皆さんには、新卒合格率ではなくストレート合格率に注目してほしいと考えています。

歯科医師国家試験 男女別の受験者数と合格率

カメ人間
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厚生労働省が公表するデータには男女別合格者の状況も記載されています。109回からの男女別の受験者数と合格率は以下のようになっています。

歯科医師国家試験 男女別の受験者数と合格率の推移

歯科医師国家試験 男女別の受験者数と合格率の推移

男性の受験者数は、第109回の1,984人から第118回は1,728人へと約250人減少し、年次推移でも減少傾向が見られます。女性の受験者数は、第109回の1,119人から第118回は1,311人へと増加しており、歯科医師志望者においても女性の進出が進んでいることがうかがえます。

また、合格率は一貫して女性が男性より約10ポイント高い結果となっています。男女で受験行動や準備状況に違いがある可能性も含め、女性の意識の高さが反映されているのかもしれません。

まとめ

今回は、歯科医師国家試験について、厚生労働省が合格発表時に公表している資料を基に、受験者数・合格者数の推移、受験回数別の受験者数と合格率、男女別の受験者数と合格率を紹介しました。

第118回歯科医師国家試験では、全体の合格率が70%を超えるなど上昇傾向が見られ、歯学部生にとって追い風と言えます。歯科医師の需給に関する議論はあるものの、将来が明るくなるよう、この合格率が今後も維持されることを願っています。

受験回数別の項では、一部の大学が新卒合格率を高く見せるために受験者数を絞っている可能性についても言及しました。受験生は、広告などで強調されがちな新卒合格率に惑わされず、入学から6年以内の合格を示す修業年限内(ストレート)合格率を重視して大学選びをすることをおすすめします。こうした見方が広がれば、そのような取り組みは抑制されていくはずです。

男女別の受験者数・合格率では、一貫して女性の合格率が男性を上回っている点が特徴的です。

今後も合格発表時に厚生労働省が公開する資料を分析した記事を投稿していきます。よろしければ、引き続きご覧ください。

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歯学部情報オタク
歯学部の入試動向や歯科医師国家試験合格率、在学生データなどを10年以上にわたり継続的に収集・分析しています。大学・省庁・予備校等の一次資料を横断的に検証し、数字の背景や注意点まで含めて解説。偏差値に偏らない、客観的で実用的な大学選びの指標を提供します。
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