「合格率」の分母に騙されるな。6年生の半数が消える?「卒業試験」と「国家試験」の残酷な真実(私立歯科大全17校データ分析)
「合格率が高いから安心」は危険!歯学部の新卒合格率には、卒試で落とされた学生が含まれていません。「6年生の半数が国試を受けられない」大学も?私立全17校の最新データが暴く、合格率の残酷なカラクリを徹底解説します。
はじめに:前回の振り返りと新たな疑問
前回の記事では、6年間の生き残り競争を示す「ストレート合格率(修業年限内合格率)」こそが、大学の真の教育力を示す指標であることを解説しました。 「新卒合格率」だけを見ていては、留年や退学のリスクが見えなくなる、という話です。
では、ストレートで順調に6年生まで進級できれば、あとは安心なのでしょうか?
答えはNOです。
実は、歯科医師国家試験の直前、最後の1年間にこそ、大学側による「出口調整(合格率の防衛策)」とも言える厳しい選抜が行われています。 今回は、最新の第117回(令和6年)・第118回(令和7年)の公式データを突き合わせ、そこに潜む「見えない壁」について徹底分析します。
「合格率90%」の意味が変わる? 100人の物語
少し思考実験をしてみましょう。
ここに、新卒合格率が同じ「90%」を示しているA大学とB大学があります。どちらが良い大学に見えますか?
- 大学A: 6年生 100人 → 90人受験 → 81人合格(合格率90%)
- 大学B: 6年生 100人 → 30人受験 → 27人合格(合格率90%)
計算上の合格率は、どちらも同じ90%です。
しかし、大学Bでは、6年生の 70人(7割) が、国家試験の受験会場にすら行かせてもらっていません。
これが「卒業留年」や「卒業保留」と呼ばれる、大学側の調整です。
受験生が本当に知るべきは、表面の合格率ではなく、この「消えた学生たち」の行方なのです。
データ分析の視点:「4つの数字」のズレを見る
真実を知るには、合格発表で公表される「受験者数」と「合格者数」だけでなく、その前段階にある数字を含めた「4つの指標」を比較する必要があります。
- 6年生在籍者数(その年の4月〜5月時点で6年生にいる人数)
- 出願者数(11月頃、国試に願書を出した人数)
- 受験者数(1月末、実際に試験を受けた人数)
- 合格者数
通常、「6年生在籍」と「出願」は近い数字になります(全員とりあえず出願はさせるため)。 しかし、一部の大学では、ここに明確な乖離(ズレ)が見られます。
【実データ検証】私立17校「出口調査」データ一覧
まずは、最新データ(令和7年度・第118回)をご覧ください。特に「6年在籍」と「受験者」の差に注目です。
| 大学名 | 6年在籍 | 出願者 | 受験者 | 合格者 | 合格率 | 受験不可(在籍-受験) |
| 北海道医療 | 70 | 67 | 48 | 44 | 91.7% | ▲22 |
| 岩手医科 | 58 | 46 | 37 | 20 | 54.1% | ▲21 |
| 奥羽大学 | 67 | 64 | 46 | 32 | 69.6% | ▲21 |
| 明海大学 | 110 | 97 | 80 | 67 | 83.8% | ▲30 |
| 日大松戸 | 104 | 101 | 82 | 50 | 61.0% | ▲22 |
| 東京歯科 | 151 | 149 | 133 | 129 | 97.0% | ▲18 |
| 日本歯科 | 123 | 113 | 105 | 98 | 93.3% | ▲18 |
| 日本大学 | 122 | 122 | 105 | 75 | 71.4% | ▲17 |
| 昭和大学 | 97 | 94 | 87 | 85 | 97.7% | ▲10 |
| 鶴見大学 | 84 | 84 | 64 | 44 | 68.8% | ▲20 |
| 神奈川歯科 | 148 | 141 | 91 | 72 | 79.1% | ▲57 |
| 日歯新潟 | 61 | 55 | 53 | 47 | 88.7% | ▲8 |
| 松本歯科 | 96 | 95 | 54 | 49 | 90.7% | ▲42 |
| 愛知学院 | 131 | 126 | 123 | 105 | 85.4% | ▲8 |
| 朝日大学 | 134 | 130 | 74 | 71 | 95.9% | ▲60 |
| 大阪歯科 | 138 | 90 | 60 | 60 | 100.0% | ▲78 |
| 福岡歯科 | 105 | 101 | 99 | 53 | 53.5% | ▲6 |
【禁断の散布図】全17校・詳細分析コメント
データをより分かりやすくするために、縦軸に「新卒合格率」、横軸に「6年生受験率(受験者数/6年在籍数)」をとった散布図を作成しました。 すると、大学は特徴ごとにくっきりと4つのグループに分かれました。あなたの志望校がどこに位置するか、確認してみてください。

【図解:4つの大学グループ】
- 右上(王者): 受験率も合格率も高い(東京歯科、昭和など)
- 左上(少数精鋭): 受験率を絞って合格率を高める(大阪歯科、朝日など)
- 右下(放任): 受験率は高いが合格率が低い(福岡歯科など)
- 左下(正念場): 受験率を絞っても合格率が低い(神奈川歯科、岩手医科など)
1. 【王者グループ】受験率「高」× 合格率「高」
多くの学生を国試に送り出し、かつ高い確率で合格させる「理想的」な大学群です。
東京歯科大学(受験率88% / 合格率97.0%)
まさに不動の王者。在籍151名中133名が受験し、ほぼ全員合格しています。「選抜」ではなく「全員を引き上げる教育力」が圧倒的です。
昭和大学(受験率90% / 合格率97.7%)
東京歯科と双璧をなす名門。6年生での留年・放校は極めて少なく、入学者を大切に育て上げる体制が整っています。
日本歯科大学 東京(受験率85% / 合格率93.3%)
伝統校らしく、安定した高水準です。無理な絞り込みをせずとも9割以上が合格する、堅実な教育が行われています。
愛知学院大学(受験率94% / 合格率85.4%)
特筆すべきは「受験率の高さ」です。在籍131名中123名が受験できており、ほぼ全員にチャンスを与えています。その上で85%合格という数字は、非常にコストパフォーマンス(教育対効果)が高いと言えます。
日本歯科大学 新潟(受験率87% / 合格率88.7%)
東京校と同様、学生をしっかり国試へ送り出す面倒見の良さがあります。合格率も9割に迫る健闘ぶりです。
2. 【少数精鋭グループ】受験率「低」× 合格率「高」
表面上の合格率は非常に高いですが、その裏で多くの6年生が涙を飲んでいる「厳格管理」グループです。
大阪歯科大学(受験率43% / 合格率100%)
今回、最も異質なデータを示しました。在籍138名に対し、受験者はわずか60名。半数以上が試験会場に行けていません。「完璧に仕上がるまで出さない」という徹底したプロ意識と厳しさの表れです。
朝日大学(受験率55% / 合格率95.9%)
出願までは130名と多いですが、直前の試験で約半数がふるい落とされました。最後まで気が抜けない、非常にプレッシャーのかかる環境と言えます。
北海道医療大学(受験率69% / 合格率91.7%)
70名中22名が受験不可となっています。少数精鋭で9割超えの高い合格率を維持する戦略です。
松本歯科大学(受験率56% / 合格率90.7%)
ここも絞り込みが顕著です。在籍96名に対し受験者は54名。約4割が国試前に足止めを受けていますが、選抜された学生はしっかり合格しています。
明海大学(受験率73% / 合格率83.8%)
上記4校ほどではありませんが、110名中30名が受験不可となっており、しっかりとした出口管理が行われています。
3. 【放任・挑戦グループ】受験率「高」× 合格率「低」
大学側が過度なストッパーをかけず、多くの学生に受験のチャンスを与えるグループです。
福岡歯科大学(受験率94% / 合格率53.5%)
受験率は94%とトップクラス。ほぼ全ての6年生にチャンスを与えています。その分、合格率は53.5%という結果になりました。 これを「挑戦する機会の提供」と捉えるか、「本番での実力がシビアに問われる環境」と捉えるか。大学の方針と、受験生のニーズが合うかどうかの見極めが重要です。
日本大学(受験率86% / 合格率71.4%)
マンモス校ですが、在籍者の86%が受験できています。合格率70%台は物足りないものの、多くの卒業生を歯科界に送り出している事実は無視できません。
4. 【正念場グループ】受験率「低」× 合格率「低」
受験者を絞り込んでいるにも関わらず、合格率が伸び悩んでいるゾーンです。大学と学生が共に苦戦している現状が見えます。
神奈川歯科大学(受験率61% / 合格率79.1%)
在籍148名に対し、受験不可が57名という大規模な留年(調整)が発生しています。合格率80%に惜しくも届かない結果となりました。
日本大学 松戸(受験率79% / 合格率61.0%)
104名中22名が受験不可。さらに受験者の合格率も6割台と、厳しい戦いが続いています。
鶴見大学(受験率76% / 合格率68.8%)
6年生での絞り込みも一定数ありますが、結果(合格率)に結びついていないのが現状です。
奥羽大学(受験率69% / 合格率69.6%)
6年生の約3割が受験不可、さらに合格率も約7割。入学後も相当な努力を継続しないと、歯科医師への道は険しいものになります。
岩手医科大学(受験率64% / 合格率54.1%)
6年生の4割近くが受験できず、受験した学生も半数近くが不合格となっています。強い覚悟を持って入学する必要があります。
それでもまだ、見えない「闇」がある
ここまで、6年生を襲う「最後の関門(出口調整)」について全17校を詳細に見てきました。 しかし、鋭い方はもうお気づきかもしれません。
今回分析した「受験率(受験者/6年在籍者)」という指標にも、実は大きな弱点があります。
それは、「1年生から5年生の間に消えた学生が含まれていない」という点です。
例えば、「6年生の受験率95%」という素晴らしい数字の大学があったとしても、もしその学年の入学者が2倍の人数だったとしたら? 6年生になる前に、既に半分の学生が留年や退学で姿を消していたとしたら? 「6年生の受験率」だけを見ていては、この「途中で脱落した人々」の存在に気づくことができません。
結論:やはり最強の指標は「ストレート合格率」
だからこそ、私が大学選びの基準として最も推奨するのは、やはり「ストレート合格率(修業年限内合格率)」です。
- 今回の指標: 6年生になってから、国試を受けられた割合
- ストレート合格率: 入学した全員のうち、最短6年で国試に受かった割合
途中での退学も、低学年での留年も、すべての情報を隠さずに反映しているのは「ストレート合格率」だけです。 今回の「出口戦略」のデータと、前回の「ストレート合格率」のデータ。 この2つを組み合わせることで初めて、その大学の「真の教育力」と「面倒見の良さ」が立体的に見えてきます。
まだ読んでいない方は、是非ご覧ください。
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【予告】3月16日の合格発表、その「ランキング」を鵜呑みにしないでください
いよいよ来る3月16日(日)午後2時、第119回歯科医師国家試験の合格発表が行われます。
発表直後から、ネットニュースや予備校のサイトでは、「大学別合格率ランキング」が速報として飛び交うことでしょう。 しかし、ここまで読んでくださった方なら、そのランキングが示す「数字の意味」を、冷静に見抜くことができるはずです。
そこで発表されるランキングのほとんどは、今回解説したような「分母の調整(受験させてもらえなかった学生)」や「過去の留年者」が考慮されていない、表面的な数字(新卒合格率)に過ぎません。
「合格率ランキング上位!」「過去最高の合格率を達成!」 そんな見出しに踊らされないよう、くれぐれもご注意ください。
当ブログ「歯学部受験情報館」では、合格発表後に厚生労働省から公開される公式データを直ちに収集・分析し、
- ストレート合格率(6年間の教育力)
- 実質的な受験率(6年生の切り捨て有無)
これらを加味しながら『合格率ランキング』を、公開する予定です。 ぜひ当ブログをブックマークして、「その時」をお待ちください。

